タルタロス・ドリーム デス編2


今日も、プリンス朝から敵と三連続で遭遇した。
急いでいるときはさっさと逃げているところだけれど、珍しく早起きできて余裕がある。
お得意のトロッコ銃で難なく倒すと、敵が一枚のカードを落とした。
掌サイズのカードには、鎧を着た兵士が描かれている。
もしかしたらレアアイテムかもしれないと、プリンスはそれをポケットにしまい、学校へ向かった。

今日は時間が早かったからか、デスとは会わなかった。
朝から嫌味を聞かずに済んだと思う反面、どこか、静かすぎて物足りないところもあった。
デスはまた寝坊したのか、授業開始の鐘が鳴る直前で教室に滑り込んでくる。

「お前のあだ名、ねぼすけで決まりだな」
「う、うるせーな・・・昨日も、研究してたんだよ・・」
デスはぜいぜいと肩で息をしていて余裕がない。
息が落ち着かないまま鐘が鳴り、選択授業の教室へ移動した。


二日連続冥界学を選ぶ気力はなく、プリンスはは怪盗学を選ぶ。
デスとは離れていたけれど、一番好きな授業だけに身が入った。
あっという間に午前中の授業が終わり、昼食をかきこむ。
適当に校内を歩いていると、また下駄箱にデスがいた。
辺りをしきりに気にして、落ち着きがない。

「おい、デス」
「うわっ、何だへっぽこか、びびらせんなよ」
「なあ、下駄箱に何かあるのか?もしかして、ラブレターなんて期待してるんじゃ・・・」
「んなわけねーだろ!・・・よし、今日は行けるな」
そう言うと、デスはいそいそと靴を履く。

「どこ行くんだ?外で授業はないだろ」
「ゲーセンがオレを呼んでんだ!そのために、今まで先生が見回りに来ない曜日や時間帯を調べてたんだよ」
だから下駄箱でこそこそしていたのかと、プリンスは呆れる。
「ついでだ、お前も来い!」
有無を言わさず腕を引かれたが、プリンスは踏み止まる。

「ゲーセンって、午後は怪盗学があるし、ジスロフ先生に見つかったらただじゃ済まされないぞ」
「何だ、びびってんのか?優等生だな、へっぽこは」
馬鹿にするように、デスは鼻で笑う。
勝ち誇ったような表情が気に食わなくて、プリンスもつい靴を取り出していた。

「びびってるわけないだろ、お前じゃあるまいし」
「な、なら、さっさと行くぞ!ゲーセンがオレを呼んでんだ!」
避難訓練のことを思い出し、デスは慌ててプリンスの腕を引く。
「お、おい、あんまり引っ張んなよ!」
ゲームセンターに着くまで、デスの手は一時も離されなかった。


平日の昼間のゲームセンターは空いていて、すぐに好きなゲームができそうだ。
デスがわざわざ学校を抜け出して行きたくなる気持ちも、わからないでもなかった。
デスはクレーンゲームへ、プリンスはシューティングゲームへそれぞれ分かれる。
ルインドアースと書かれた機体の前に座ると、ちょうどランキングが表示された。
その一番下には「へっぽこ」と表示されていて、プリンスは溜息をついた。

ランキングに表示されるくらいの高得点が取れたときは嬉しかった。
けれど、そのときデスがクレーンゲームの景品を自慢してきて気を取られて
気付けば時間切れになっていて、ランダムで選ばれた名前が自動的に登録されていた。
その「へっぽこ」という名前を見た瞬間、デスは大笑いして、すぐにそう呼ばれるようになってしまった。
けれど、そのランキングも自分が高得点を出せばランク外になって表示されなくなる。
プリンスは気合いを込めて、コインを入れた。

瞬きすることも惜しいくらい集中して、自機を操作する。
授業の疲れがまだないからか、だいぶ調子よく進めていた。
何体ものボスを撃破し、どんどん点数が上がっていく。
そして、とうとう撃墜されたとき、自己最高得点をマークしていた。
画面上には、名前入力画面が表示されている。


「よし!これで、やっとあの名前をランク外にできる」
プリンスが名前入力をしようとしたところで、肩を叩かれる。
「何だよ、また邪魔する気・・・」
言いかけたところで、目の前に黒猫のストラップが差し出される。
ストラップとはいえ、苦手な猫を間近にしてプリンスは少しのけぞった。

「これ、やるよ」
「やるって、これ使い魔シリーズだろ?お前集めてるんじゃ・・・」
「いいから受け取れ!これ、もうダブってんだからよ!」
そこで、デスの背後にあるクレーンゲームが目に入る。
そこには「激レア、あんこくねこストラップ入荷!」と大きく書かれていた。

「・・・じゃあ、もらってやるよ」
本当にダブったのかと訝しみつつも、プリンスはストラップを受け取った。
そのとき、ピーッという電子音がして、はっとする。
まさかと思い、おそるおそる画面に目をやると、すでにランキング用の名前が入力されていた。
名前をのぞきこみ、デスが吹き出す。
ランキングには、しっかりと「へっぽこ」という名前が高々と上がっていた。

「うわあああ、お前がジャマしたせいでー!」
「ぎゃははは、やっぱ、お前にはその名前が似合ってんだよ、へっぽこ!」
デスはプリンスをからかいつつ、ゲームセンターを出る。
「お前、待てー!」
プリンスはいきりたって、デスを追いかける。
腹がたっても、右手にはしっかりとストラップを握りしめていた。




その翌日も、昼休みに下駄箱へ行くと、いつものようにデスがいた。
「おい、今日もゲーセンに行くのか」
背後から話しかけられただけで、デスはびくりと尻尾を震わせる。
「びびらせんなよ、へっぽこ。もちろん行くぜ、ゲーセンがオレを呼んでんだ!お前も行くだろ?」
「うーん、どうしようかな・・・」
プリンスが悩んでいると、デスがはっと目を見開く。

「や、やばい、うるさいジジイが見回りに来やがった!」
プリンスが振り返ると、廊下の先に老齢の教師がいた。
あの教師は規律に厳しいことで評判で、見つかったらただでは済まない。
二人は、下駄箱の影にさっと隠れる。

「先生が見回りに来る時間は、調べてあったんじゃなかったのかよ!」
「あのジジイは気紛れすぎんだよ!あああ、このまんまじゃやばい・・・」
デスはおろおろするばかりで、見つかるのは時間の問題だ。


「デス、来い!」
プリンスはデスの手を取り、強く引く。
そして、掃除用具入れのロッカーの中へ逃げ込んだ。
中はぎりぎり二人が入れるほどで、だいぶ狭い。
自然と体が密着し、ほとんど身動きが取れなくなった。

「おい、もう少しそっち寄れよ!」
「寄れるわけないだろ、お前こそもぞもぞ動くなよ!」
緊張しているのか、デスの尻尾に落ち着きがない。
変に動かれると、尻尾が股の辺りをかすめ、プリンスは一瞬だけ息を飲んだ。

「お、おい、変なとこ触んなって!」
「ばか、触ってねーよ!」
口論していたところで、目の前に教師が来て二人は口をつぐむ。
「はて・・・今誰かの声がしたような」
ロッカーの隙間から、教師が辺りを見回しているのが見える。
緊張感で、二人の心音は強く鳴っていた。


静かにしていると、教師が去って行く。
二人は溜息をつき、力を抜いた。
「はー、マジでびびった・・・今回は助かったぜ」
「ったく、あやうくとばっちりくらうところだった・・・」
外に人がいないことを確認し、プリンスは扉を開こうとする。
だが、扉はガタガタと軋むだけで開かない。

「お、おい、扉が開かないぞ!」
「えー、どうすんだよ!お前が変な閉め方したからじゃねえのか!」
デスも扉を開こうと押すけれど、ただただ軋むだけだった。
「まさか、このままずっと開かないんじゃ・・・」
「デス、不吉なこと言うなよ!ずっとお前と一緒なんて・・・」
そこで、プリンスは言葉を止める。
ずっと一緒なんて死んでもごめんだ、という言葉が出てこない。

一方、デスは絶望的な気分になっているのか大人しくなる。
静かになると、お互いの心音ばかりが目立ってしまい、プリンスは落ち着かなかった。
狭苦しい中で密着していると、じんわりと汗がにじんでくる。
こんなに近付いたことなんてなくて、さっきとは違う、変な緊張感があった。


「・・・やばい、そろそろ授業が始まる。もう、全力で押しまくるぞ!」
「お、おう」
変な感じに耐えきれなくなって、お互いは扉に手をかける。
そうして、ロッカーを揺らしつつ精一杯押すと、錆びついた音がして何とか開いた。
「ぷはーっ、まったく、どうなることかと思ったぜ!」
「はー、ゲーセン行くのはいいけど気をつけろよ・・・オレはもう授業行くからな!」
デスの方を見ずに、プリンスは駆け出す。
時間がぎりぎりで、焦っていたのは事実だった。
けれど、それ以上に、予想よりも熱くなっている自分の頬に気付かれたくなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ゲームで、すでにイベントがあるととても書きやすいです。
プリンスとデスは、たまに素直な反応が出るところがすごく萌えまする(*´Д`)
次はどんなイベント膨らますか、自分でもわくわくしつつ進められそうです。